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ある時、アフリカのカメルーンのヤウンデから図書開発の責任者として活躍している専門家W氏が日本にやって来た。背の高い大男であるが、実に優しそうなアフリカ人であった。東京での会議を終え、京都旅行へ出発した新幹線での車中でのこと、私が差し出したつまみを一口食べると氏は驚きの声をあげた。 「おお!これはいったい何という食べ物。わしはこれまでこんなにうまい食べ物を食べたことがない」と彼はビールのつまみの「サキイカ」を口いっぱいにほおばりながら、まるで鬼の首をとったかのように演説口調で話をした。彼は長い間カメルーンで公共奉仕大臣の任にあったが、彼の任はまだ続いているかに思えた。 「そうか、これはサキイカという名前か。この味ときたらたいしたもんだ。そうか、これは海のイカを干し上げて味付けしているのか。これはすごい。これは美味い。アフリカでも絶対に受ける。我々の酒のつまみのほとんどは、ヨーロッパからの輸入物だが、日本人は食べ物の分野でも、伝統や文化を大切にしながら独自な味を作り上げている。大したもんだ。日本人・・・・」と述べたあと、 「私はぜひアフリカでも、サキイカを開発したい。ついては、イカをこのように加工できる機械を持ち帰りたい。機械の手配を是非お願いしたい」と、まるで専門の図書開発のことはすっかり忘れたかのようにしゃべり続けた。 そして京都のホテルの部屋に落ち着いてからも、彼は山のように買いこんだサキイカをひたすら食べ続けるのであった。その姿は、アフリカがかって植民地であったヨーロッパ諸国からあらゆる分野で自立しつつ、食文化でも独自の文化を模索しつつある姿を思わせるものであった。私もビールと同時にサキイカは大好物なので、「なるほど。サキイカの味は国境を越えている。たいしたもんだ」と、大変喜んだものであった。 帰りの新幹線の中で、彼は今度は「イカクン」という別のつまみを見つけて舌鼓を打っているのであった。イカクンもサキイカと同様に感動的な味を感じたらしい。そして結局、彼が日本滞在中に覚えた日本語は、「サキイカ」と「イカクン」であった。 しかしその後、カメルーンでサキイカが開発されたということを聞いたことがない。 |
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