21世紀の ヒューマン・リテラシー

アクセスカウンタ

zoom RSS アジア・太平洋共同出版計画(ACP)と21世紀の課題

<<   作成日時 : 2018/05/23 10:41   >>

驚いた ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

このプログラムが、かってアジア地域に誕生していたことはまるで夢のようです。これは国境を超えて宗教の違いを超えて、共同で育んだアジアの子どもの本が、たくさんのこどもたちに熱狂的に読まれていたこと。アジアの国々で採話された昔話は、アジアの何十もの言葉で翻訳出版されて、その本から再びアジアの昔話の語りが始まったことー実に30年間にわたって続いたこのACCUのプログラムは、アジアだけでなく、全世界の図書開発にも大きな影響を与えました。

そもそもの始まりは1966年、ユネスコが世界図書年を記念して東京で開催した「アジア地域出版専門家会議」です。会議はアジア地域では出版活動が非常に低調で、特に児童書の不足が深刻、図書の甚だしい不足が教育振興や社会的・経済的な発達を極度に妨げていると指摘しました。しかしこれに出席した参加者たちは真剣でした。言葉多く語るだけでなく、会議ではアジアの図書開発の基礎を堅固に築いて見事に実践したのでした。

この会議の勧告を受けて、TBDC(ユネスコ・東京出版センター)が生まれ、そして現在のユネスコ・アジア文化センター(ACCU)が誕生し、1972年から「アジア地域共同出版計画」が開始されたのです。第1回会議には7か国、第2回会議には16カ国の参加がありましたが、1979年からは太平洋地域も加わって、プログラム名は「アジア・太平洋地域共同出版計画」(Asian-Pacific Co-Publication Prgramme (ACP) となりました。活動の予算は、日本の民間・政府・ユネスコから捻出しました。この計画は、アジア・太平洋地域の出版を盛んにすると同時に、アジア地域の子どもたちが同じ読み物を読むことで、お互いの理解を深めようという願いもあり、子どもたちへ向けて「アジア人の、アジア人による、アジア人のための本」文字通り作りが始まったのです。

この共同事業では、それぞれの国の社会体制や文化などの違いから、参加者間で激論も起き、問題点も多数報告されました。例えば共通読み物版では、使用した「ちのはなし」という絵本で、あるイスラム教を国教とする国の参加者は、「絵本には主人公がけがをして出血した血をなめるシーンがあるが、わが国では血をなめるということは考えられもしない。こうしたシーンは外してほしい。」と主張し、「たろうのともだち」という絵本では、たろうの親しい犬が描かれたことについて、ある国は「わが国では犬は不浄の動物とされているから、犬ではなく猫に変えてほしい」という要望もありました。まるで笑い話のようですが、こういうことが頻繁にあり、例えばデザインするときのカバーの色彩についても、「グリーン色は聖なる色などで使用は難しい」と社会体制や価値観の違いは大きな問題となったのです。

これこそが国際理解や相互理解が必要な分野なのですが、1982年の企画会議で、「アジアの文化遺産」の絵本の編集を進めていたとき、イランの原稿の最終チェックで、子どもがモスクに行って祈っている言葉を、「戦争の終結」から「戦争の勝利」へ修正して欲しいという要請がありました。そこでACCUでは、共同出版の目的などを粘り強く話して、最終的にイランからは「戦争の終結を神さまにお願いしました。」と修正した文章が送られてきたのでした。こうしたやりとりが常に存在しながら共同出版は続いたのです。

こうして1972年から2002年まで30年間に、「アジアの昔話」、「アジアのお祭り」、「現代アジアの短編集」、「わたしの村、わたしの家」など30種類の作品が、アジア30カ国で、実に42種類の言葉で、400万部以上が生み出されてきたのです。このプログラムは終了後、すでに15年が過ぎていますが、今もなおアジア各国で子どもたちに読まれまれています。世界出版史上でも極めてユニークなこのプログラムは、アジア各国の児童書の発展にも大きな影響を与え、他のラテンアメリカ地域やアセアン地域での共同出版計画を次々と生み出し「野間国際絵本コンクール」の創設にも大きな影響をあたえました。

ヨーロッパには、フランスやドイツなど国籍の異なる12名のヨーロッパの歴史家たちが一堂に集まって討議を重ね、そのうえで共同執筆した「ヨーロッパの歴史」という教科書プログラムがありますが、アジア地域ではこれより20年前の1972年から児童書の共同出版が始まっていたのです。

 私は1977年にACCUに入り、1997年まで「アジア共同出版計画」や「識字教材作り」などを20年間にわたって、同僚と共に担当してきましたが、このプログラム自身から、そして各国の専門家たちから実に無数のことを学びました。そして私は、このプログラムがアジアだけでなく全世界で、多くの喜びや幸せを多くの国の人々に与えてきたことを見てきました。それは読書を通じての子どもたちの笑顔や喜びを作り出し、瞳の輝く子どもたちを目にすることでした。世界から多くの評価がありました。「次期ノーベル賞です」と力説したのは森山文部大臣ーしかし私たちはこのような評価のよくわからない賞など必要ありません。アジアの子どもたちが喜んでくれれればそれで十分で賞。(笑)

1990年には米国で開かれたIBBY(世界児童図書評議会)、フランクフルトブックフェア、バンコクで開催された120カ国が参列した世界教育会議なども絶賛の嵐を受けた本が、かってACCUによって作り出されたこと。そしてみんなが目を輝かせて働いていたことーそれがすべてですね。

私は思うのです。今の時代を考えるとき、ACPのプログラムは終了することではなく、ずっと続けて欲しかったことです。挑戦的な課題はたくさんあります。夜を徹してアジアの作家、編集者、出版人などが「アジアの子どもたちのための本作り」に汗を流した30年間、この感動的な時間や空間を是非とも21世紀に蘇らせて欲しいものです。


画像

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
驚いた

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
アジア・太平洋共同出版計画(ACP)と21世紀の課題 21世紀の ヒューマン・リテラシー/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる