パキスタンで舞台化された世界30言語で翻訳された「コンキチ」の寓話
コンキチの創作を書き始めたのは 1974 年、もう 40 年前になりますね。当時、遊学していたド イツのミュンヘンにあるアパートの6階で、小雪が舞っているアルプスの方角を眺めながら、 ふと思いついて書き始めた寓話です。そのとき私は26歳、毎日、バイエルン州立図書館に通 っていました。そして人生を限りなく夢想していたのです。
その頃は、春になって暖かくなったら、ドイツから汽車で出発し、トルコの黒海を船で渡り、シ ルクロード経由でインドのシャンティ二ケタンの大学へ遊学を始めようと考えていたときでしたが、降 り積もる雪を見ているうちに、私はふと生まれ育った広島の山間部にある故郷の三次を思い出して いたのです。故郷にも、同じように今は雪が降っているだろうなと想像したとき、不意に雪の中 に一匹のキツネのイメージが浮かんできたのです。
「そうだ!キツネの物語を書こう!それは私自身の生き方を表現するものになるかも知れな い。そのキツネは、山の自然を破壊され、絶望感とともに、人間へのあこがれなど複雑な気持 ちを持って、人間に変身する―そして山を下り、会社人間となって夢中で働く人生。しかし、キ ツネを待ち受けていた人間世界とはいったいなんだったのか?
人間は生涯をかけて生きるために懸命に働く仕事の意味はいったい何か、人生とは?生活と は?幸せとは?私自身の人生を重ね合わせながら、1篇の創作に10年もの歳月をかけて 「コンキチ」の物語を書き上げてみたのです。この物語が初めて刊行されてから…