アジアに生きるーノンフォーマル教育における深刻な課題

アジア・太平洋地域の識字教育に約30年間たずさわった経験から痛感するのは、なかでも最も深刻な影響を受けている非識字者の約70%以上を占めるアジアやアフリカなど途上国の子どもたちや女性たちである。特に女性の非識字者が増加しているのは、これからの世界を考えるとき、深刻な事態を予想させる。 アジアの農村へ行くと、女性は育児、生活、教育、生産、経済など社会生活のすべてを担っているにもかかわらず、学ぶ機会は閉ざされている。私たちはややもすれば現代の経済や政治のように、目に見え。予算になり、具体的で即効性のある力による対処のしかたに心を奪われているが、しかし世界がしばしば大きな破綻ときたすのは、いつの時代も目には見えない重要な人間的な教育が切り捨てられる時である。 文字というのは実に不思議なものである。文字によって、情報を簡単に貯蔵する事ができるし、加工することも、時間や空間を越えて世界に簡単に伝えることもできる。文字は思考や活動を記録したり、人々の表現やコミュニケーション能力を育てながら現実社会を大きく変革させる原動力ともなってきた。しかし、現在、全世界の成人のうちなんと十億人もの人々は、この文字の読み書きが全くできず、非識字者と呼ばれている。,パキスタンの農村地域の女性たちで読み書きのできるものは非常に少ないが、隣国アフガニスタンはパキスタンをはるかに越えて、世界で最も識字率が低く、ほとんどの子どもたちや大人たちは読み書きができない深刻な状況にある。現在、経済面だけでなく世界の識字者と非識字者との間…

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識字教育が直面している現在の課題 ー9月7日の講演会のお知らせ

9月8日は国際識字の日です。識字とは文字を読んだり書いたりする能力のことです。世界には15歳以上の成人の5人に1人の割合、およそ10億人の読み書きのできない非識字者がいると推定されます。その3分の2が女性で、さらに学校に通えない子どもたちがおよそ1億人います。文字を読めないと、騙されたり、扇動されたり、そして人権を侵されても問題を解決するのが難しくなります。  今回の学習会では、長年、ユネスコやJICAでアジアの識字教育に関わってきた田島伸二氏が、識字の意義とアジアの現状について語ります。 主催:   東都生協平和委員会主催 日時:   2007年9月7日(金) 午前10時 ~ 12時 会場:   渋谷区立商工会館 5階 第1会議室 講 師:  田島 伸二 氏 国際識字文化センター代表 定 員:  80名 (保育あり) 参加費:  無料 申し込み: 電話 TEL:0424-80-3030 締め切り: 9月3日(月) ※ 応募者多数の場合は抽選。 ※ 落選者のみ電話またはEメールでご連絡します。 ※ 保育は1歳以上。必要な方は申し込み時にお伝えください。  

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9月8日の「国際識字の日」にNHK国際放送で話したこと

これは9月8日にNHKラジオ国際放送で20カ国に放送されました。 1:識字に関して、これまでどういう取り組みがなされ、世界的には現在どういう状況にありますか? In 1990, delegates from 155 countries, as well as representatives from 150 organizations has been attending at the World Conference on Education for All in Jomtien, Thailand (5-9 March 1990) to universalize primary education and massively reduce illiteracy by the year 2000, with sufficient emphasis on female literacy to significantly reduce the current disparity between male and female illiteracy rates for the actions and there was big result of these ten years. However, there is still an adult of about 800 million illiterate and about 100 million children out of the…

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識字率とは、そして世界の非識字者数とは、なんですか?(識字シリーズNo.11) 

1990年の国際識字年に、タイのジョムティエンで「万人のための教育世界会議」が開催されました。私もこの会議に出席する機会を得ました。発言こそしなかったものの、壇上での報告では、当時世界の成人の非識字者人口は、約8億9千万人ぐらいと言っていました。そしてよく言われていたことは、「世界の識字教育は、各国の識字教育に傾ける努力で、識字率は年々高くなっていくものの、世界の絶対人口の増加で、全世界の非識字人口は、毎年徐々に増加していく状況にある」とユネスコ報告にありました。 私としては、非識字者人口は、21世紀に入ると、だんだん増えていくと認識していましたが、現在の統計の数字をみると非識字者数は、2006年に7億7千万人ということです。これは当時と比較すると1億人減少しているのですが、この数字は果たして信頼に足る数字でしょうか?もちろん内訳を詳細に見ていかねばなりませんし、アフリカ地域や南アジア、そして中国などで識字率向上に向けて顕著な努力が形になったことは認めますが、非識字者の内訳がどうなっているのか、是非知りたいものです。情報化社会の進展によって、世界中で特に南アジアやインドにおける膨大な非識字者人口が、教育環境に刺激され識字者になったという驚異的な数字は承知していますが、私が気にしているのは、人口の増加と、それに見合う識字教育が果たして本当に進展しているのかどうかということです。 大雑把な話ですが、1990年当時、世界の人口は毎年約9千万人ぐらい増加していたので、このままだと2050年…

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識字シリーズNO.10 現代と識字

識字の問題は、それぞれの時代の文明のありかたをリアルに表現しており、現代のように多様で大量な情報の海を生きるためには、テレビや広告や宣伝などあらゆるメディアについての批判的能力の形成が子ども時代から非常に重要となっている。それは今日の多様なメディアに十分にアクセスできる能力と同時に、それを分析評価したり、あるいは多様な形態でコミュニケーションを創りだすことのできる能力を指しているもので、それはこれまでの社会がもっていた読み書きなど文字を中心に考えられてきた識字(リテラシー)の概念を超えて、映像やあらゆる形態の電子コミュニケーションを広く理解し、創造する力を含んだ新しい概念である。21世紀にはコンピューターによってますます多様で迅速なコミュニケーションが実現するだろうが、それが利益だけを追求して、市場経済だけの成功を求める単なる機能や効率を求める場合には、取り返しのつかない人間疎外や不信が生じてくるだろう。  そして現代世界は識字(リテラシー)を狭義に理解し、文字文化を偏重するあまりに自然の視覚・聴覚・触覚・味覚・直感・運動などコミュニケーションの大いなる可能性を十分育ててはこなかったこと。特に、日本の子どもたちは、受験教育や学習指導要領などに代表される読み書き能力を中心とした学力偏重によって、豊かな感性による想像力やたくましい創造力を養う機会を奪われてきた。その結果人間的な感受性や表現能力が非常に乏しい結果となっている。コミュニケーションができていないのだ。自然や人間の基礎にある豊かな生き方を絶…

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言葉・文字・平和・自己表現をめざすICLC 識字シリーズNO.7 

ICLCを知っていますか?国際識字文化センター(ICLC)は、アジアやアフリカなど発展途上国が直面している子どもたちの識字教育(読み書き計算能力)や文化の共同プロジェクトに向けて、1997年5月、5カ国(日本、インド、韓国、中国、米国)の有志によって国際NGOとして東京に設立されたものです。 世界が直面している格差の問題の根源には、現在、世界で約10億人を超える読み書きの出来ない人々がいますが、彼らは貧困や病気や環境破壊の中で、非識字のために、人間らしく生きていくための知識や情報を得ることができない厳しい状況の中で暮しています。そのため国際識字文化センターは、アジア・太平洋地域の人権・環境・平和・教育・文化などの分野で、識字教育(リテラシー)と深く連携しながら、国境を越えた多様な形での“識字教育“の実践を行っている非政府組織の専門家集団です。 1998年5月、パキスタンの農村地域で私は、ノンフォーマル学校を二百校設立する式典に出席した時、教育大臣の口から次のような祝辞を聞きました。「今日、我が国には10数人のカディール・カーン博士のような科学者が存在している。識字教育は核開発など科学技術の発展に大きく貢献するものである。学校が増え識字率が向上することによって、我が国の核開発がますます進展していくことを希望する。云々」私はこれを聞き怒りが込み上げてきました。 カーン氏とはパキスタンの原爆開発の父とも言われる著名な科学者です。もし識字が核開発のような目…

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識字シリーズNO.5 春は講演・映像・音楽・展示・ワークショップ・・・・・・  

ICLC2006年春の展示+セミナー 「現代アジアの子どもたちが直面している現実」 講演・映像・音楽・展示・ワークショップ活動   ICLCは、ヒューマン・リテラシー(人間性の尊厳を高める識字教育)を推進するために、1997年以降、アジア各国でさまざまな活動を実践していますが、現在の世界は、差別や貧困、戦争や環境破壊などがますます深刻な課題として膨れ上がっているのが現実です。多くの国では、貧困による犯罪や冤罪・といったさまざまな理由で、多くのこどもたちが刑務所に入れられています。「本を読みたい」、「もっと生きた知識を」といった彼らの叫びに応えるために、ICLCは、2000年よりキラン(太陽の光)ライブラリーを設置し、同時に識字活動を多様に広げるために、紙漉きを通じてのコミュニティ活動、絵地図分析のセミナー、多様な創作表現活動などを推進しています。今回の展示やセミナーを通じて、ご支援下さる皆さまと、さらに新しいヒューマン・リテラシーの幅広い活動へと結びつけていきたいと思っています。 会期中には、テーマごとに「ビデオ上映やディスカッション」など刺激的で面白いセミナーも開催致し、海外からも著名な専門家が参加する予定です。皆さまとの新しい出会いを心からお待ちしております。 主催: アジアの子どもたち国際教育協力活動展示・セミナー実行委員会」 (ICLC,パキスタンICLCP,韓国ICLC委員会, インドSakthi Center共催) 会場: GEIC(地球環境パートナーズシップ…

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識字シリーズNO.3 見える世界から見えない世界へーヒューマン・リテラシーの確立に向けて

その昔、私は「びっくり星の伝説」”The Legend of Planet Surprise” という物語を書いたことがある。この物語はアジア地域では既に20数言語に翻訳され各国で出版されているが、この物語の中で人間という存在は「言葉と手」を発達させたために他の生物とは大きく異なり、非常にユニークな文明を築くことが可能となったことを主題にした。そしてその中でも「驚き」を人間の大きな興味となし、特に「言葉」は人の目にも見えない世界や事物を 容易に描写し想像させることができたし、人間の「手」はそれを実際に目に見える世界に具体化させることができた。この両者の見事な協力によって、他の動物と異なって人間は文明を発達させたが、その使い方を誤ったために人間の文明が危機に瀕し、終には宇宙の彼方に消滅してしまったという物語である。 1998年5月、私はパキスタンのパンジャブ州の農村地域でノンフォーマル学校を二百校設立する式典に出席した時、文部大臣の口から次のような祝辞を聞いた。「今日、我が国には10数人のカディール・ハーン博士のような科学者が存在している。彼らの努力によって今日、我々は今日、素晴らしい科学技術を達成することができたが、識字教育とはこのような科学技術の発展に大きく貢献するものである。学校がますます増えることによって、我が国の核開発がますます進展していくことを希望するものである。云々」 私はこれを聞き怒りが込み上げてきた。カディール・ハーン氏とはパキスタンの原爆開発の父とも言われる有名な科学…

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希望とは、誰の目前にも転がっているもの・・・・

1997年6月に私はパキスタン連邦政府の首相識字委員会へJICAのアドバイザーとして赴任して驚いた。人々に笑い顔がない。希望がない。みんなの表情がいかにも深刻だ。無理もない。当時は公務員の30万人の削減計画が進行していたし、政権はパキスタン人民党(PPP)からモスリムリーグ(PML)へと大きく交代し、それに伴いスタッフなどの首切りなどが進行していた。経済状態は極度に悪く、みんな暗い顔をしている。50年間のパキスタンの歴史ではいつもこうしたことの繰り返しで、もう慣れきっていると言っていたが、みな淋しげに笑っていた。政権が変わると多くのプロジェクトが完全にご破算になり、プロジェクトが中途で破産してしまうのだ。政治が安定していないと、永遠に工事は完成しない。腐敗が蔓延する。こうした深刻な国内の状況を見ながら、私はこうした中では、まずなによりも人々を励ますことが大切だと思った。どうやって元気づけるか。みんなの希望や夢を聞いてみると、異口同音に「海外で働きたい」、「問題は資金のみ」と出会う人すべてがそう言った。しかし私は、これまでのように資金や大きなプロジェクトを供与するのではなく、パキスタンの実情にあった小さくても確実な゛希望゛の作り方を、彼らと一緒に実践してみたいと思った。それほどこの社会の政治や官僚の腐敗度はすごかったし、人々は自らの国や人生に希望をもっていなかった。  こうした状況で子どもたちにどんなメッセージが送れるというのだろう。「洞窟の暗闇の中で、ある男が箒で闇を掃き出そうとして…

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識字シリーズNO.1 パキスタンで行なった識字教育

文字というのは実に不思議なものである。文字によって、情報を簡単に貯蔵する事ができるし、加工することも、時間や空間を越えて世界に簡単に伝えることもできる。文字は思考や活動を記録したり、人々の表現やコミュニケーション能力を育てながら現実社会を大きく変革させる原動力ともなってきた。しかし、現在、全世界の成人のうちなんと十億人もの人々は、この文字の読み書きが全くできず、非識字者と呼ばれている。パキスタンの農村地域の女性たちで読み書きのできるものは非常に少ないが、隣国アフガニスタンはパキスタンをはるかに越えて、世界で最も識字率が低く、ほとんどの子どもたちや大人たちは読み書きができない深刻な状況にある。  現在、経済面だけでなく世界の識字者と非識字者との間には知識や情報の巨大なギャップが生じており、しかも非識字者の三分の二はアジア地域に集中し、現代の急激な人口増加などによって増加の一途をたどっている深刻な状況にある。 この大きなギャップから世界を揺るがせるような事件が続出しているとしても不思議ではない。テロ組織はこうしたギャップに発火することをひたすらに目指しているからである。そのためにはこうしたギャップを生み出さないようなシステム、あるいは難民を作らない平和教育、あるいは人間らしい生活や人生を求めてのノンフォーマル教育などが、緊急に必要であり、21世紀の平和と安定はすべてこれにかかっていると言っても過言ではない。アジア・太平洋地域の識字教育に約30年間たずさわった経験から痛感するのは、なかでも最…

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