「サカナの絵」

随分前のこと。気の置けない友人と喫茶店で話していたら、突然、紙とボールペンを渡されたことがある。 「魚の絵を描いてみて」 え、と眉毛を寄せたわたしに、その友人は続けた。  「芸術的じゃなくてもいいから。30秒くらいで書けるやつを描いてよ。見ないどくから。で、描けたら裏返しにして置いて」 (できれば、ここで皆さんも魚の絵を書いてみてください)  わたしは言われるままにペンを受け取り、魚の絵を描いた。金魚みたいな、頼りない魚。タイヤキみたい、と思った。 描けたよ、といったわたしにおもむろに友人は言った。 「質問です。○か×で答えてください」 ますます分からなくなって、首をかしげた。  「1.描いた魚は、横から見た魚の図である。   2.魚は、頭を左側にして描かれている。   3.魚は、一匹である。   4.魚は、どの種類の魚か特定できない姿をしている。   ……さていくつ○だった?」  「全部、丸よ」 答えると、友人はにこにこしながら、でしょう?、と言った。  試してみると、ほとんどの人が上の四つに当てはまる魚の絵を描くのだという。  「この時、描く魚の絵は、「絵」というより、「記号」だからだろうね」と、友人は続けた。  漠然と、「さかな」と言われるとき、わたしたちは「要求されているであろうところ」の記号を描くのだろう。友人の話しによると、同じことを、NHKの「課外授業 ようこそ先輩」という番組の中でやっていたという。美術評論家の布施英利さんの回。…

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